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CONNECT #13 箱根キリム(インテリア雑貨店)

箱根キリムを地図検索して足を運んでみると、たどりついた場所は別荘が並ぶ閑静な道路。「箱根キリム」と書かれた看板はたしかにあるのだが店は見当たらず、見上げる限り、終わりが見えない階段だけがある。

店舗をはじめて訪れたときは、ブロアーを持った店主の志村昌昭さん(以下、店主)が階段の下で出迎えてくれた。秋は落ち葉が階段を覆ってしまい1日数回はブロアーで掃除しないといけないという。

彼のあとを続いてうねるように続く階段をどんどんと登っていくと、やがて素敵なログハウスが見えてくる。偶然道路沿いの看板を見かけたとしても、勇気がないとなかなかここまではたどり着けないかも……などと考える。

店主によると、ここは店舗でありながら兼業されている別会社の事務所でもあるそうだ。販売用の数々のキリムが置かれているのは、ログハウスの二階。晴れた日にはログハウスの二階の窓から、あるいはログハウスの1階を出てすぐのウッドデッキからキリムが垂れ下がり、気持ちよさそうに日光浴をしていたりする。

お店にあるキリムは、店主が20年ほど前にトルコまで足を運び、実際に選定したものだ。一昨年からは娘の志村亜美さん(以下、亜美さん)が販売・発信を手伝っている。今回は10月に急遽エンブレムフロー箱根のギャラリーで展示していただくことになり、キリムに惹かれた理由やトルコでのお話、キリムの魅力などを教えてもらった。

キリムに惹かれた理由

店舗に足を踏み入れてみると、そこここにキリムが敷かれていることに気づく。入ってすぐのところに一枚。ローテーブルの下に一枚。スツールにもキリムがシートカバーのようにして装着されている。「ここに敷いてると意外と売れちゃったりするんだよ」と店主は笑う。

床を彩る織物といえばペルシャ絨毯やギャッペなどキリムのほかにもいろいろあるが、なかでもキリムに惹かれた理由を尋ねてみると、20年ほど前に購入したこのログハウスに敷けるものを探した末、一番しっくり来たのがキリムだったのだという。「簡単に干せるし、軽いじゃない?それから季節ごとに模様替えができて、雰囲気も変えられますからね」と店主。でも、店主の場合、家と相性のいいものを数枚選び、敷いて、おしまいではなかった。

トルコでの大冒険

キリムに魅せられ、店主はトルコに知人がいたことから20年ほど前にキリムの産地であるトルコまで実際に足を運んだ。あまり海外旅行には出かけないという店主は、英語もトルコ語もあまり話せないなかひとりで歩き回った時間も多かったそうで、「何しろ大冒険だったな」と振り返る。

1週間ほどの滞在時に店主が撮った写真が、いくつかのアルバムにおさめられていた。トルコで見た景色や出会った人、食べた物が映された写真を一枚一枚めくりながらいろんな思い出話がぽろぽろと店主の口からこぼれ出す。トルコの観光都市としても知られるアンタルヤから車で一時間ほどのところにある滞在先、地方の村で見た景色のこと。個人ではなかなか行けない問屋で500枚ほどのキリムを2日間かけて見たこと。やんちゃなトルコの若者たちが、店主が借りていた車に乗り込みそのまま彼についてきてしまったときのこと。生活に溶け込むキリムのこと。

どの思い出も20年前にしてはとても鮮明に記憶に刻まれている印象を受ける。「トルコはどんな場所でしたか?」そう聞くと店主はこう話した。

「日本の田舎みたいだね。もちろん風景は全然違うんだけど。人はみんな優しい。日本人みたいにガードがない。日本の里山に暮らす人たちのようでした」

最近はオンラインストアでの買い物も盛んだが、こうやって商品を仕入れたときの思い出話を教えていただけるのはパソコンの画面からではなかなか得られないことであり、手に取るものにさらなる深みを与えてくれる時間だと感じた。

キリムの魅力

店主は男性だが、「箱根キリム」のインスタグラムアカウントを見ると、彼の姿は一切見当たらない。時々キリムとともに写真に写っているのは、とびっきりの笑顔がとても愛らしい女性だ。彼女が娘の亜美さんである。物も、洋服も、建物も古いものが好きだという亜美さんが「キリムって、よく見たらかわいいかもしれない」と思い始めたのは、2年ほど前のこと。以来、店舗のインスタグラムアカウントを開設し、本業と重ならない時間帯で店舗を開けて接客をしたり、イベントでポップアップをしてみたりと「箱根キリム」の運営を手伝っているという。

亜美さんが特に惹かれるキリムはどのようなものかと聞いてみると、「私は基本的にオールドキリムが好きです。いびつなところがおもしろいですね。左右対称に見えて、片方だけ違う柄が入っているとか。たぶん人間が作っているから、こっちだけが広がっちゃってるなんてこともあるんだと思います。そういうところもかわいいです」

キリムは人の手で織られてきたため、どれひとつとして同じものはない。遊牧民たちが織ったとされるオールドキリムに関しては基本的にキリムが織られた地域の植物で草木染めされていたため、色合いを見るだけでどのエリアのものかがだいたいわかるそうだ。植物で出した色とは思えないほど鮮やかなものもあり、化学染料とはまた異なる色合いに魅せられる。細かな模様もエリアごとに特徴があり、「厄除け」「子孫繁栄」「商売繁盛」など柄を通じて願いが織り込まれていたりもするらしい。

箱根キリムにはざっと数百枚ほどのキリムがあるので、延々と迷ってしまいそうな気にもなる。実際に考えあぐねて半日ほど店舗に滞在する人も少なくないらしい。

ウンと迷ったときは持ち前の感性に頼るのもそうだが、まずはちゃんと広げて見てみるのがいい。亜美さんが言っていたように柄がいびつなこともあり、端から端までじっくりと見ているうちに惹かれる要素が増えたりすることもあるからだ。亜美さんはお気に入りのキリムを広げながら「見れば見るほど味わい深いですね」としみじみ。特に修復されているものはもとある柄に合わせていたり合わせていなかったり……そんなところを見つけるのもおもしろい。何より人々が糸を染め、何日もかけてキリムを織っている様子を想像すると、その根気強さに圧倒されてしまう。

箱根キリムの営業日は毎月亜美さんが箱根キリムのインスタグラムアカウントにてアップデートしているので、そちらからご確認を。エンブレムフロー箱根での展示販売「邂逅」は11月3日(木)まで。