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CONNECT #14 ハリガネ工房 Tsukihi 法月健一(ワイヤー作家)

ものを束ねたり固定したりするために使われることが多いワイヤー(針金)。細いながらもいろんな形に自由に曲げられるうえ、丈夫であることから、昔から屋根の瓦を留めるために使われたり、盆栽の樹形を整えるうえで一役買ってきた。どちらかといえば影で支える役割を担うことが多い針金だが、法月健一さんの手にかけると、ワイヤーは主役になる。

▲法月さんのワイヤーアート作品。映画『レオン』のマチルダ

法月健一さんは、静岡県を拠点に「ハリガネ工房 Tsukihi」という作家名で活動されているワイヤー作家さんだ。今回はエンブレム編集部よりお声がけをさせていただき、うれしいことに11月8日(火)からエンブレムフロー箱根のギャラリースペースではじまるグループ展「たぐりよせる」に参加いただけることになった。法月さんとお話をしていくなかでひとつわかったことがあるとすれば、それはワイヤーに対してものすごく深い愛情をお持ちだということだ。

ここでは法月さんがどのような道のりを辿り今のキャリアと作風に至ったのかをお聞きした。

とにかく作りたくてしょうがなかった

「いまだにそうなんですけど、とにかくワイヤーを触っていないと落ち着かないという変なところがありまして」と法月さんは小さな笑みを浮かべながら話しはじめる。

はじめてワイヤーに触れたのは、10年以上前の2011年のこと。複数の友人たちと思い出づくりに都内で開催されていた『デザインフェスタ』に参加したときに、ふと「ハリガネで何かつくれたらおもしろいかな」という考えが降ってきたのだという。そうして生まれてはじめてワイヤーで作った作品は蜂だった。

いざワイヤーで作品を作りはじめてみると、途絶えることなく作品のアイデアが浮かんでくることに気づいた法月さん。この出来事から10年以上が経った今でもアイデアのストックは底をつくことがないと、幸せそうな表情を浮かべながら彼は話す。ただ、時間に限りがあることからアイデアをすべて形にできていないようで、どこかむずがゆそうだ。

ワイヤーで食べていくと決めた

「なるべくワイヤーをずっと触っていられるような生活をしたいんですけどね」いまや一児の父親であり夫でもある法月さんはいう。この言葉には長年の願望が詰め込まれているともいえるかもしれない。

というのも、2019年からはずっとどこかで願っていた独立の道を踏み切った法月さんだが、ワイヤーに触れ出した当初は広告代理店でグラフィックデザイナーとして働き、大抵いつも終電で帰宅していた。作品づくりに割ける時間は、眠りにつく前のわずか10分から15分。本当はもっとワイヤーアートに時間を注ぎたいけれど、なかなかそうもいかない生活が数年続いたそう。

精神的にも肉体的にも大変だったある時期は、二年という年月をかけて横幅1メートルほどの大きな羊を作った時期もあったという。

その間、忙しい合間を縫って展示もしたものの、作品は売れたり売れなかったりで、ワイヤーアートで食べていきたいが、食べていけるのだろうか……と独立への道はなかなか踏み込めずにいた。

転機が訪れたのは、ご自身の結婚式。式場のウェルカムスペースにあるボードなどをワイヤーでつくり、大きな羊を含む作品などを展示すると、それを実際に式場で、あるいはSNSを通して見て、気に入った人たちから仕事の声がかかるようになった。

とてもうれしい話だと思いきや、まだ会社員としての仕事を続けていたためになかなか受けることができず、依頼をされても結局お断りをすることに。

断り続ける日々が半年続いたある日。

「もう断りたくない!」

募りに募った悶々とした思いが一歩踏み出すエネルギーに変わり、2019年に晴れて独立のアクセルを踏んだのだという。そこからはオーダーメイドのワイヤーアートをつくったり、ご自身のなかから湧き出たアイデアを形にしたりして、ワイヤーアート一本で取り組んでいる。

発想次第で自由に変わる

たくさんの素材があるなかでワイヤーに惹かれた理由を聞いてみると、「ワイヤーという素材を、発想次第で何でも自由にできる多様性がおもしろいなと思っています」というお返事が返ってきた。

「自由」と聞くと逆にどうしたらいいのか、と不安を覚えることもあるけれど、法月さんは「自由」を突き詰めることにやりがいを見出している。そして突き詰めるとは、必要に応じて作風を変えることにもつながるのかもしれない。

たとえば法月さんの当初の作品は、ワイヤーを密集させた密度の高いものが多く、今大半を占めている人の顔よりも、動物が次々とできあがっていったようだ。

それが2021年になると突然、シンプルな線を使いながら人の顔を作りたくなったのだという。「今までとは違うアプローチで何か作れたらおもしろいなと思いまして」と法月さん。これまで勉強したことのなかったデッサンの基礎知識を独学で学びながら、これまでとは違う作風に取り組み、日々模索と改良を繰り返している真っ最中だという。

なかでも最近のお気に入りについて聞いてみると「このおじさんです」と割と短いスパンで返事が返って来た。選ぶとすれば、おじさんの顔を作るのが好きなのだという。どこか気に入っている特徴があるのだろうかと突っ込んで聞いてみると、作っていて楽しいのは彼らのヒゲとシワとのご返答。「年を重ねる美しさというか。おじさんには、やっぱり若い人にはない味があると思うんですよね。そういう美しさを表現したいなと思っていて。年をとるのって、そんなに悪いことではないと思うので」

▲法月さんがお気に入りとして挙げたおじさんが驚いている表情を見せている作品

ワイヤーというと「やわらかい」という印象とはほど遠いが、法月さんがたとえば近年つくりだしてきた顔の作品たちを見ていると、まるで風に吹かれているかのように軽やかな前髪や、ぷるんとした唇など、きれいな曲線が見事ワイヤーで表現されていて、ワイヤーの無限の表現力にどうしても魅せられてしまう。

今回の展示では過去の作品をはじめ当館の展示のためだけに作っていただく新作もお目見えする。さまざまな角度や位置から作品にライトを当ててみると顔が伸び縮みするようで、そんな楽しみ方も当館のギャラリーでできる予定だ。

私たちも実物をこの目で見られる日が楽しみでしかたない。どうぞお楽しみに!

法月健一(作家名:ハリガネ工房 Tsukihi | Instagram | Online Store

ハリガネ工房 Tsukihiは、静岡県を拠点にワイヤーアート作家として活動中。 主に動物やバイク、人物をモチーフとして作品を制作。 ワイヤーで作成する似顔絵も受注生産受付中。

■静岡県を拠点に活動する3名の作家による展示「たぐりよせる」

開催日時:2022年11月8日(火)-12月9日(金)| 開廊時間:7:00-22:00 | 入場:無料