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CONNECT #15 おおいしももこ(イラストレーター)

こたつでみかん、家族でピクニック。静岡県を拠点に活動するおおいしももこさんのイラストはどことなく懐かしく、眺めているうちについ自分の思い出の引き出しまで開けてしまいそうになる。

おおいしさんには11月の展示「たぐりよせる」に参加いただく予定だ。静岡県を拠点に活動する3名の作家をまさに”たぐりよせた”展示となり、おおいしさんはそのうちのひとり。エンブレム編集部よりお声がけをしたところ、彼女には晴れてエントランスを入ってすぐの壁面を使ったインスタレーションを制作いただけることになった。ここではおおいしさんが10年以上作品づくりのテーマとしてきた「思い出」について、彼女がキャンバスとして選ぶものについて、そして今後について話を伺った。

▲おおいしももこさん

テーマは思い出

おおいしさんが「思い出」というテーマをもとに作品を作ろうと決めたのは、今から10年ほど前の大学3年生の頃だった。ちょうどそのころおおいしさんは、地元の静岡県から1,500キロ以上離れたところにある沖縄の美術大学で絵画を学んでいた。そこで、思い出を愛でるきっかけとなることが大きく二つ起きたのだそうだ。

一つ目は、慣れ親しんだ地元を離れたことによって、育ってきた環境のありがたみを再確認したこと。二つ目は人生初のヤゴの抜け殻を発見したこと。

「大学にちっちゃい池があるんですけど。そこにトンボの幼虫のヤゴの抜け殻があって。ヤゴの抜け殻ははじめて見たんです。それにすごくワクワクしたんです。見たことのないものを見つけたときのワクワク感が、子どものころを思い出させてくれました」

その二つの出来事について考えていくうちに、過去のいろいろな経験によって今の自分が作り上げられているのだとじわじわと実感しはじめたのだそう。そこからは幼いころに起きたさまざまなできごとを振り返りながら、それらを作品に落とし込むようになったという。ただ、思い出といっても忘れもしない超重大事件などではなく、どちらかといえば歴史には残らないかもしれないが、ささやかでホッとするような思い出を脳内から引っ張り出してきているそうだ。

毎回自分の思い出が作品に映されているのかと聞くとそうとも限らず、ある展示では友人などから思い出話を聞いて、作品づくりに取り組んだこともあるという。いずれにしても思い出という軸だけはこれまでもこれからもぶれなさそうだ。

過去も、今も、未来も満遍なく

プールで泳いだことやシャボン玉を吹いたこと……。昔のなんてことない出来事に思いを馳せることは、今ある状況から一歩引いてものごとを見るのにも最適かもしれない。特に今に必死だと前も後ろも見えなくなることがあるかもしれないが、そんなときこそ今ではない過去や未来に目を向けるべきかもしれない。おおいしさんの話を聞いていると、そう思えてくる。

実際におおいしさんは今に没頭してしまうことが多いらしいが、本来は過去、今、未来を満遍なく大切にできたらいいという。

テーマが思い出、と聞くとおおいしさんの作品は一見「過去」に焦点を当てているようにも思えるが、「今」の視点を持っておおいしさんの作品に触れることで前向きな「未来」につながったとしたら、過去・今・未来が一本の線で結ばれるともいえる。作品を通してそんなつながりを生み出し、いろんな時間軸を分け隔てなく考えたり愛でたりするきっかけがつくれたらうれしいと彼女は語る。

キャンバスは身近なもので

おおいしさんが思い出を描くキャンバスも彼女の作品づくりにおいて注目すべきことの一つかもしれない。おおいしさんが最近よく使われているのは、石。2020年ごろ、静岡市文化クリエイティブ産業復興センターで開催された展示「わすれもの」で石を使うと決めて以来、海岸や川など地元の近くのいろんなところに足を運び、石を集めるようになったらしい。

▲おおいしさんご自身のアトリエショップ「L&F」での展示より

聞かずにはいられず、「なぜ、石?」と問いかけてみた。

「飾られている絵って、だいたい四角い額に入って展示されていますよね。でも私が四角におさめようとすると、すごく窮屈になっちゃうんです。いつだったか海に行ったときにふと下を見たら石がいっぱい広がっていたんです。手に取ってみたらつるっとまるっとしててすごくかわいくて。よく見ると、キラキラしているのもありました。一つとして同じものがないのもすごくいいなと思いましたし、サイズ感がすごくマッチしたんです。それと石の重みが思い出の重みを表す上でも、程よいように感じました」

石以外にもおおいしさんは緩衝材としてくしゃくしゃにされて箱に入れられた紙やカレンダーの裏紙をキャンバスに使うこともあれば、作品を虫かごの中に入れてみることもある。おおいしさんの作品を見ていると、いかに身近なものがアートに変わる力を持っているかを魅せられる。

今後の挑戦

おおいしさんは現在年に数回展示をするほか、清水町のアート研究室長として子どもに​​アートの可能性を体験してもらったり、ワークショップを開催したり、自身のアトリエショップ「L&F」を運営したりと大忙しだ。アトリエショップに関しては自分の作品はほとんど展示せず、日々忘れかけていることを思い出すきっかけをつくろうと展示を企画したり本を取り扱ったりゆるく、かつ精力的に取り組んでいる。

今後について聞くと今取り組んでいることとはまた別のいろんなことがあがった。「やりたいことはたくさんありますね」とおおいしさんは切り出す。今後は地元静岡県を飛び出てもっと展示をしていきたいこと、これまでのイラストと文章を融合させて絵本を作ってみたいこと……今以上に活動の幅を広げていきたいという思いで、おおいしさんの目はキラキラしている。

今後はどのようなキャンバスを用いて、どんな思い出を未来へと続けてくれるのだろう。そんなことを楽しみに、彼女の今後を追っていきたい。


おおいしももこ(インスタグラム

静岡県清水区を拠点に活動されている、自称”思い出収集家”。イラストレーターでありながら美術の講師も務め、自身のアトリエ「Lost & Found」も運営中。作品のすべてに共通するテーマは、思い出。

■静岡県を拠点に活動する3名の作家による展示「たぐりよせる」

開催日時:2022年11月8日(火)-12月9日(金)| 開廊時間:7:00-22:00 | 入場:無料