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【CONNECT #6】Rina Lila&高橋響 コラボ展(1/2)

2022年4月9日(土)から5月31日(火)までの間、エンブレムフロー箱根のギャラリースペースで開催している、アーティストのRina Lilaさんとフラワーサイクリスト(※)の高橋響さんのコラボ展「FLOWER EARTH〜未完成の優しさ〜」。

※フラワーサイクリストとは”Flower”と”UP CYCLING”(環境用語である「アップサイクル」)を組み合わせた造語で、廃棄されてしまうお花(ロスフラワー)をドライフラワーにして、ものづくりの力でアクセサリーや装飾などさまざまな形にアップサイクルする職を指す。

展示期間中はギャラリースペースが二人のアトリエにもなり、時間をあけて訪れると新たな作品に出会えるような内容になっている。花で溢れる世界を作りたいという思いから展示名は「FLOWER EARTH」、未完成の作品もしまわずに飾り、完成に向かうプロセスも愛(め)でようという思いを込めて、サブタイトルには「未完成の優しさ」がつけられている。

今回の展示は、それまで話したこともなければ会ったこともない二人をエンブレムのクルーが引き寄せ、晴れて実現されたものだ。空気感がきっと合うだろうという直感をもとに二人を引き寄せた経緯はあるものの、辛いことも晴れやかなこともそっと包み込むような二人の世界がエントランスを彩りはじめると、想像以上にぴたりとはまるものがあるように感じられた。

活動をはじめてから2年もしないうちに活動領域をぐんと広げていった二人に、今突き進んでいる道について根ほり葉ほり聞いてみた。今回はその内容を2回に分けてお届けする。まずは二人とエンブレムフロー箱根の出会い、今の道を進むきっかけとなった出来事や作品を通して伝えていきたいこと、今回の展示などについて聞いてみた。

▲高橋響さん(写真左)とRina Lilaさん(写真右)

二人と箱根

エンブレム編集部(以下、E):二人とも、エンブレムフロー箱根との出会いは実はご自身の展示ではありませんでしたよね(Rinaさんはもともとエンブレムフロー箱根のスタッフで、響さんは2022年1月にエンブレムフローに宿泊したばかり)。国内にはたくさんのホテルがありますが、なかでもエンブレムフロー箱根を選ばれた理由をまずは聞いてみたいです。

Rina Lila(以下、R):私は2020年の2月と3月にここで働いていました。その前はバックパッカーとして東南アジアをひとりで旅していたこともあって、日本で働くとしたら英語が使えるような、外国人がよく来る観光地がいいなと思っていました。まだ行ったことのないところに住んでみたいというのもあって、「住み込み」って探したらここが出てきたんです。サイトを見たときに「ここ、よさそう」ってほんまに直感で応募しました。

高橋響(以下、H):私は「どこか旅行に行こう」と思い立ったのも2日前とかで。

E:フットワークの軽さ、最高です(笑)!

H:ふふふ。1年のはじまりだからゆっくりしつつ、いろいろと考えられるところがいいなと思っていて。私が予約をしたHafh(毎月定額でホテルに泊まれる旅のサブスクリプションサービス)には本当にたくさんの宿があるので、最初は山形や都内も見ていました。でもなんか違うなと思っていたら、エンブレムが出てきて「箱根!」と思いました(笑)。箱根は温泉もあってすごく好きで。エンブレムでは館内でアート作品を飾っていたりもして、すごく素敵な場所だなと思い、ちょうど泊まりたかった3日間も空いていたので引き寄せられるように申し込みました(笑)。

E:(笑)箱根は以前に何度か来られていたんですね。

H:そうですね、年に何回か来ることがあって。強羅は去年はじめて来たんですけど、登山鉄道がすごく楽しくて(笑)。箱根湯本とはちょっと違って観光客だらけでもなく、自然もたくさん感じられる場所ですよね。そのときはケーブルカーで早雲山まで行ったんですけど、道なりが素敵で、そのときの記憶が今でも頭の中に残っています。

E:Rinaさんは箱根で思い入れのある場所はありますか。

R:箱根に来たときに絶対に行くのは、ポーラ美術館NARAYA CAFE(ナラヤカフェ)です。エンブレムで働いていたときに働いていた子が今でもNARAYAで働いていて。その子に会いに行くのもそうやし、空間がすごく好きやから箱根に来たときは絶対に行きます。あと、強羅は歩いているだけで気持ちがいいです。自然がある、ただそれだけでいいと思わされます。

▲強羅駅付近の風景(エンブレムフロー箱根から徒歩1分)

少しずつ近づいていった、今ある道

E:早速キャリアについても聞いていきたいと思います。響さんは子どもの頃の夢の一つが「花屋」で、Rinaさんは小学1年生の頃、自分が描いたイルカの絵で賞を受賞していたと知りました(@emblemhotelsでのInstagram ライブより)。長い年月を経て今の道へと導かれたように感じたのですが、二人が今の道を「これだ!」と感じた瞬間について、聞かせてください。

H:私は実は「ロスフラワーだ!」となる前に、「いろんな地域とのつながりを作りたい」というのが最初の入り口としてありました。きっかけとなったのは、東北からおもしろいことを発信しようと活動している起業家さんたちと一緒に何かを作り上げる、東北プロボノプロジェクトに参加したことです。

私は東北の震災もあった岩手県出身なのですが、なぜか「東北には働く場所はないだろう」と思って東京に出てきました。それで10年弱の間に4回ほど転職を重ね、自称「キャリア迷子」になっていたことをいろんな場所で話しているんですが(笑)。そのときは自分には価値も居場所もないと思いながら過ごしてました。

そんななか見つけた東北のプロジェクトで、いきいきと働く人たちと出会い、働く場所や居場所はいろんなところにあることを感じたんです。幸せの形は人それぞれですが、自分が心地いいと思える場所を見つけられている状態は「幸せ」と呼べるんじゃないか、とこのプロジェクトに参加してから思うようになりました。

そこからは居心地のいい場所を見つけるきっかけ作りをしたいと思いはじめて、地域と人、人と人をつなげて、居場所をつくるにはどうしたらいいかと考えるようになったのですが、ちょうどそのときコロナ禍に突入してしまって。同時に当時働いていた会社での業務が逼迫して、体調を崩して休職してしまいました。でも休職してゼロになったからこそ、一から立て直せると思ったんです。

そこからはアンテナを張り、引っかかったものを掴もうとしていたら、たまたまフラワーサイクリストを養成するスクール二期生の募集ページを見つけて、「これだ!」と思いましたね。

お花ならゆるやかに人をつなげられそうだし、全国各地にお花の農家さんもいる。フラワーサイクリストという職を見つけたとき、全部がつながったような気がしました。長くなりましたが(笑)、そこからはエンジン全開です。実際に講義が始まったのが2020年の7月末頃だったので、キャリアとしてはまだ二年経っていないくらいですね。

▲エンブレムフローに来て響さんがすぐに作った作品「許容」。来てすぐの響さんは心に余裕がなかったそうで、この作品をつくる際には真っ先にトゲトゲの花やギザギザの植物に手を伸ばしてしまっていたとのこと。そんな自分も許容したい、そして同時にここに来る方々のどんな感情も許容したい、という思いをもとに完成された作品。

E:Rinaさんも「これだ!」と思った瞬間を教えてください。

R:私は昔から「心からこれがやりたい」というのがずっとない子でした。

でも中学くらいのときからなんとなく「外国人と話せるようになりたい」という思いが生まれて、フィリピンやアメリカに留学したり、絶対に話せるようになるという一心で、独学で勉強したりしていました。大学生になってからはバックパッカーとして旅に出ようと思い、一カ月半かけてシンガポール、インドネシア、マレーシアを周ったんです。そのときは「これ、というものを見つけたいな」とは思っていましたが、英語や海外に興味があっただけでした。

それでぷらっと散歩しているような感覚でバリ島の美術館に入って絵を見ていたら、急に描きたいという気持ちが出てきたんです。「日本に帰ったら絶対に描く」とそのときに決めて、そこからは鉛筆、ペン、水彩を画材屋さんで買って、描くことをちょっとずつはじめました。それが2019年の終わり頃です。

2020年の9月くらいには「本格的に色を使いたい」という気持ちが出てきて、はじめてアクリルを買いました。そしたら色を混ぜる瞬間とか、できあがる色、感触がめちゃ気持ちよくて。「これが自分を出せるツールや」というのがそのとき「ビビッ!」と来ました。ほんまにずっとこの瞬間を待っていたような感じ。そこからは何かに取り憑かれたかのように毎日描きはじめました。

E:ずっと探していたパズルの破片を見つけたかのような「これだ!」という瞬間を皮切りに、人生はどう変わったと思われますか。

H:何もかもが変わった、といえば本当にそうです。でも一番は、この活動を通して、過去の自分を癒し、認められるようになったことかもしれません。自分には価値がないと思っていたキャリア迷子の時代もそうですが、小さいときから人と話すのがあまり得意ではなくて。言葉を絞り出すときの胸の痛さを今でも思い出すくらい、発する言葉一つひとつをすごく選んでいて、心地よく人と関わることがあまりできていませんでした。

でもこの活動をはじめてからは、自分に価値がないと思っていたときもちゃんと点は打てていた、と気づくことができました。点が線でつながって、今のこの活動に生きている。ロスフラワーという一見「価値がない」とみなされてしまったお花にまた命を与えて、きれいにしていく工程には自分も救われているし、そういう経験をした自分が生み出すもので救える人はきっといるんじゃないかという温かい自信を持てるようになりました。

E:Rinaさんはどうですか。

R:絵をはじめたことで強制的に自分の人生のなかで苦しんできたこと、自分を受け入れたり愛したりすることと向き合わされた気がします。たとえば、最初の頃は完成した絵を見ても好きじゃない、あんまり見たくないという気持ちが出てきて悲しくなったり、こういうのが描きたいんじゃないと自分を否定したりすることもありました。

でもそれを「いい」と言ってくれたり、「展示しない?」と声を掛けてくれる人もいて。「自分から出るものが、みんなが喜ぶものなんやな」とみんなのおかげで少しずつ気づくようになってから、もっと本格的に発信したり、自分の絵を見てもらいたいなって思うようになりました。

それと、自分を愛する方法は、絵とコネクトして絶対にみんなに伝えられることだと思ったので、これまであった辛いこととどう向き合ってきたかを発信するようにもなりました。そうしたら少しずつやけど共鳴してくれる人たちとか、絵をいいって言ってくれる人が出てきて。胸がいっぱいになります。

後編に続く

Rina Lila(リナ・リーラ、写真右)

1996年兵庫県加古川市出身。23歳のとき、ひとり旅で訪れた美術館で「絵を描きたい!」という衝動に駆られ、帰国後から創作活動を開始。アーティスト名の由来は「神々の遊び」「創造の自由の喜び」を意味するサンスクリット語「Lila」から。描き出す絵にはまさに宇宙がダンスするように、創造の喜びや自由が表現されている。

https://www.instagram.com/rina_lila_art/

高橋響(たかはし・ひびき、写真左)

1990年生まれ、岩手県出身。旅するフラワーサイクリストとして、さまざまな理由で廃棄されてしまう花から新たな価値を生み出す活動を展開中。2020年11月には、”2年後の未来が変わるかもしれないお花屋さん”がコンセプトのプロダクトブランド「きらくにフラワー」をはじめる。同屋号ではショップ出店や各種イベントを多数開催。空間や撮影の装花、百貨店でのワークショップ、オーダー作品の制作なども手掛けている。

https://www.instagram.com/hibiki_tripflower/